閑静な住宅地・御影の山手幹線沿いに、朝からにぎわうカフェがある。「Alster&Garten(アルスター&ガーテン)」は、元プロサッカー選手の酒井高聖さんが、兄で元サッカー日本代表の酒井高徳選手(ヴィッセル神戸)と共に開いた一軒だ。口コミやSNSで評判が広がり、現役Jリーガーたちも通う人気店となっている。
セカンドキャリアはカフェ運営
高徳さんから「一緒にカフェをやらないか」と誘われたのは、現役を引退した26歳のときだった。
「サッカーを辞める1年前から、引退後の身の振り方について考えていました。当時はドイツリーグでプレーしていたので、ドイツの大学に進学したい気持ちもあったのですが、コーヒーが好きで飲食業に興味があったことから、兄の提案を受け入れることにしたのです」。高聖さんは4兄弟の末っ子。5つ歳の離れた高徳さんとはハンブルクでの暮らしを共にし、休日は一緒にカフェへ出かけるなど、「家族というより、仲の良い友達みたいな関係」だという。店舗づくりでは、ドイツの美しい街並みや、街の中心部にあるアルスター湖周辺のレストランやカフェからインスピレーションを得た。「兄と話し合いながら、自分たちで壁や天井を塗ったり、アンティークショップでインテリアを探したり。特にこだわったのはカウンターで、一からデザインしました。タイルの模様や色など、細かな部分まで決めるのは大変だったけれど、イメージ通りの仕上がりです」。
選手時代の食生活をメニューに
店自慢のコーヒーは、高聖さんが自ら焙煎した豆を使用。酸味や苦味のバランスを整え、万人に好まれる飲み飽きない一杯を目指す。また、トーストやケーキなど、コーヒーと相性の良いフードも並ぶ。メニュー開発のベースとなっているのは、身体づくりのためにドイツで実践していた食生活やトレーナーなどから得た情報だ。「ドイツでは、栄養価が高い全粒粉や雑穀を使ったパンが一般的で、自分でもよく手作りしていました。その味を再現したくて近所のパン屋さんに相談し、完全無添加のオリジナルを焼いてもらっています」。レモネードには国産無農薬のレモン、スムージーにはドイツで初めて口にしたスーパーフードのビーツを用いるなど、食材は吟味し、お客さんの身体を思いやる。「当店で出合った味が、身体に良いものを食べるきっかけになればうれしいですね」。
人生はこれから可能性は無限
カフェをオープンしてまもなく2年。スポーツとはまったく異なる分野への挑戦は苦労もあるが、気負いなく毎日を楽しんでいる。「『コーヒーを通じてさまざまな交流や物語が生まれる店』というコンセプト通り、多くの人との出会いがあり、多様なビジネスにつながっています。それらがこの先、どのように広がっていくのか、可能性はいろいろあると思うので、自分で決めて進んでいきたいですね」。爽やかな笑顔が、充実した今を物語っていた。
プロフィール
Alster&Garten マネジャー(元プロサッカー選手)
酒井 高聖(さかい ごうそん)さん
1996年新潟県三条市生まれ。11歳からサッカーを始め、アルビレックス新潟ユース(現アルビレックス新潟U-18)に入団。2014年にアルビレックス新潟でプロサッカー選手としてデビューし、2018年にはドイツ4部リーグに移籍。リューネブルクSKハンザなどで経験を重ね、2022年に現役を引退した。現在はカフェ運営のほかにビーツブランド「さかいのびーつ」も手がけ、生産者と協働しながらビーツの加工や販売を行っている。
インフォメーション
Alster&Garten
自家焙煎コーヒーと自家製スイーツやモーニング、軽食が楽しめる店。夏は、たっぷりのフルーツと自家製グラノーラをトッピングした、口当たりの良いスムージーボウルがおすすめ。コーヒーのテイクアウトも可能。
☎︎078-862-5578
神戸市東灘区御影1丁目14-25 メビウスビルB1
月〜金8:00〜17:00(L.O.16:30)、土・日8:00〜18:00(L.O.17:30)
取材ウラバナシ
サッカーに未練はないかと尋ねると、「ないと言えば嘘になるけれど、やり切ったし、引退の時期に後悔はありません。11歳から始まったサッカー人生は、短くも密度の濃いものでした」と高聖さん。サッカーは今も趣味として続けているそうです。