プロスポーツ選手やアスリートの誰もが迎えるセカンドキャリア。近年はその道が多様化しており、女子プロゴルファーも例外ではない。レッスンコーチになったり、育児をしながらプレーを続けたりする選手が増える中で、大谷奈千代さんは独自の道を開拓。ゴルフクラブをペンに持ち替えて始めた「ゴルフイラストレッスン」が静かな人気を呼んでいる。
第二の人生を支える特技
きっかけは、コロナ禍前に始めたSNSだった。ゴルフ指導者の資格試験に向けてまとめた勉強ノートを、自分の記録としてインスタグラムにアップしていたところ、親しみやすいイラストと文章がゴルフ専門ウェブマガジンの編集者の目に留まった。「高校時代からイラストで自分の考えを可視化することが好きで、先生に『お前の書いたノートは売れる』と言われていました。編集者から『イラスト解説も交えた技術記事を書きませんか?』と声を掛けてもらったのは、体の故障が原因で競技者として一線を退き、セカンドキャリアを模索中の時でもあったので、引き受けることにしました」。大谷さんの記事はわかりやすいと読者から評判が良く、今はゴルフ月刊誌でも連載を担当している。「ゴルフイラストレッスンなら大谷奈千代と言われるまでになることが目標です」。
母のひと言でプロの道へ
父の勧めで、熱中していたソフトボールからゴルフに転向したのは14歳の時だった。「地元にある名谷ゴルフセンターがゴルファーとしての出発点。そこで私の初スイングを見た母に『あなたはゴルフで食べていける!』と背中を押され、すっかりその気になりました」。中学卒業後はゴルフ部のある滝川第二高校へ進学したが、時代は女子ゴルファーブーム前夜。周囲を見渡しても、同世代でゴルフをしている女子は、ほぼいなかったという。全国大会出場へと導く実力者揃いの先輩たちに刺激を受け、ゴルフのおもしろさに魅了されていった大谷さんは、大学進学を選ばず、一心に技術を磨き続けた。2004年の国民体育大会で兵庫県初の個人優勝を手にし、翌年に念願のプロ入りを果たす。けれども現実は厳しく、「うまくいかない、成績が出ない、稼げない。しょっちゅう辞めたいと思っていました」。それでも2008年には、ステップアップ賞金ランキング1位という輝かしい成績を残した。
指導者になって得た気づき
現在は〝なっち先生〟の愛称で、アマチュアゴルファーの指導やジュニアの育成にも携わっている。心底ゴルフを楽しみ、夢中になる人を増やしたいと、得意なイラストで愉快にゴルフの歴史を伝え、技術で伸び悩む人の心に寄り添う時間も大事にしているという。「指導者になって5年。ゴルフの見方が180度変わり、感覚で捉えていた動作を言語化するようになって、自分のプレーも進化しました。一番うまくなったのは私かもしれません(笑)」。次の夢は、技術論をわかりやすく説いた絵本を出版すること。目標に向かう情熱が尽きることはない。
プロフィール
プロゴルファー
大谷 奈千代(おおたに なちよ)さん
1984年神戸市生まれ。2005年のプロテストに合格し、滝川第二高校出身の女子プロゴルファー1号となる。ステップアップツアーで2勝を挙げ、2011年に賞金シードを獲得。LPGAトーナメントプロ・ティーチングA級の資格を取得し、はばたんジュニア指導員として後進の指導にも取り組んでいる。2024年10月5日に蒲生ゴルフ倶楽部(滋賀県)で開催される「第2回 センコーグループ LADY GO CUP」に出場予定。
インフォメーション
毎週木曜7時30分に「みんなのゴルフダイジェスト」(ゴルフダイジェスト社)で記事を配信中。月刊「ワッグル」(実業之日本社)の連載も読み応えあり。ゴルフ好きはぜひチェックを。プライベートレッスンも実施中。
問い合わせや申し込みはインスタから
https://www.instagram.com/nacchi.golf/
もっとゴルフを楽しみましょう!
取材ウラバナシ
大谷さんは「もしプロゴルファー以外の道を選べるなら、パティシエになりたかった」というほどの甘い物好き。雑誌などをチェックして、神戸のスイーツ情報をこまめに収集するのも楽しみだそう。