湊川の活気は今、地域で生まれ育った次の世代に受け継がれようとしている。その流れを仲間たちと率いているのが、今回登場する2人の店主だ。小学生時代から変わらない彼らの関係と、地元に寄せる思いを聞いてみた。
一緒にいるのが心地いい
神戸では珍しい油かす専門店「横山商店」を経営する横山一資さんと、土鍋で豆を自家焙煎するコーヒー屋「テントコーヒー」を営む佐藤聡一さん。どちらも湊川の人気店として知られ、街ににぎわいを呼び込んでいる。テントコーヒーから目と鼻の先にある横山商店は、2年半ほど前に引っ越してきた。「ウチより流行ってるテントコーヒーに近い方が、油かすも売れるんちゃうかなと思って」と横山さんはニヤリ。すると佐藤さんは「コイツ、毎日うちのカウンターでコーヒーを飲みながら、実は自分のところの店番をしよるんですよ」とこぼす。6歳で出会い、苦楽を分かち合いながら絆を深めてきた。横山さんが病に倒れた母親のお好み焼き屋を23歳で継いだ時も、佐藤さんが脱サラをして沖縄のコーヒー農園に修行に行くと決めた時も、一番近くから誰よりも大きなエールを送った。攻めの姿勢と行動力で荒波を乗り越える横山さんに対し、真面目にコツコツと努力を重ねる佐藤さん。互いの考え方に刺激を受け、認め合える、唯一無二の間柄だ。
湊川の人情に育ててもらった
幼いころから2人の遊び場だった商店街は、「店も雰囲気もちっとも変わらん」と横山さん。通りには青春の思い出が詰まっている。「中学のときに一番通った店は、東山商店街にある古着屋の『きたむら』。おばちゃんが着るようなブラウスとかに混じって売られてるリーバイスのヴィンテージジーンズを、宝探しみたいな感覚で見つけたりしてました。三ノ宮の高架下の店なら1万円くらいするものが、1,000円やったんですよ」と懐かしむ。「今では考えられへんサービス精神」と佐藤さんが振り返るのは、育ち盛りの空腹を満たしてくれたお好み焼き屋。「1人100円から300円くらいでお腹いっぱいになりました。金にならん俺らがカウンターを埋めても、店のおっちゃんとおばちゃんは嫌な顔ひとつしなかった。今の俺やったら、はよ帰れ!って言ってます」。彼らが触れてきた人の温かさや優しさは、時を経ても街に息づいている。
地元に恩返ししていきたい
湊川界隈の商店では、店主の高齢化が進む一方で後継者も育っており、2人と同世代の若手たちが地域を盛り上げるために奮起している。その取り組みの一つである「湊川公園手しごと市」では、横山さんと佐藤さんも尽力。出店するだけでなく、事務局へ意見を出したり、運営側の仕事も積極的に手伝ったりした。「生まれてから今まで、商売が苦しかった時は特に、地元の人たちにほんまに助けられました。だから次は俺らが恩返しをする番。この街にしっかり根を下ろして商売を大きくし、仲間たちと地域の活性化にも貢献していきたいです」と横山さんは力を込める。湊川に吹く新しい風が、街の未来を動かしていく。
プロフィール
横山商店 店主
横山 一資(よこやま かずし)さん
tent-coffee 店主
佐藤 聡一(さとう そういち)さん
共に1982年生まれの湊川育ち。地元の小・中学校で学び、横山さんは甲子園大学を卒業後、ワーキングホリデーでカナダへ。帰国後は鉄板焼きお好み焼き「きぬや」を営む傍ら、店で使用する油かすの製造に着手し、現在は小売りと卸販売を行っている。佐藤さんは大阪経済大学を卒業後、広告会社勤務を経て、沖縄のコーヒー農園で下積みを経験。2011年にテントコーヒーを開業。
インフォメーション
横山商店
独自製法によって牛小腸の旨味を閉じ込めた油かすが評判。
店名 | 横山商店 |
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電話番号 | ☎078-335-7722 |
営業時間 | 11:00~19:00 |
定休日 | 不定休 |
所在地 | 神戸市兵庫区東山町3-6-16 BestBazaar 1F |
tent-coffee(テントコーヒー)
わずか2坪のコーヒー店。テイクアウトと豆販売がメイン。
店名 | tent-coffee(テントコーヒー) |
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電話番号 | ☎050-5248-7510 |
営業時間 | 月~金 8:00~18:00 土・祝 10:00~18:00 |
定休日 | 日曜休み |
所在地 | 神戸市兵庫区東山町3-1-1 |
取材ウラバナシ
商売についてよく相談し合う2人。佐藤さんは、横山さんの口癖である「攻めろよ」に後押しされ、2店舗目を決意したそう。「でも横山は、今まで開けてきた複数の店舗を全部閉めてるんですよ。コイツのアドバイスは正しいのか…疑問です」