神戸で長く愛された観光船「ファンタジー号」の後を引き継ぎ、2020年にデビューした「boh boh KOBE 号」。その舵を握る村岡美徳さんは、全国でも珍しい女性船長だ。朗らかでおっとりとした雰囲気の村岡さんが、男性でも過酷と言われる船乗りの仕事を選んだ訳とは。
船上から望む神戸の絶景にうっとり
澄み渡った空と青い海に、まばゆく映える白い船体。汽笛の「ボーボー」という音色と、フランス語で「美しい」を意味する「beau(ボー)」を掛け合わせて名付けられた「boh boh KOBE号」は、人々を夢見心地な船旅へと誘う。60分の周遊では、中突堤中央ターミナル「かもめりあ」を出航し造船エリアを抜け、神戸空港周辺やポートアイランド西側などを巡る。明石海峡大橋や六甲山系が眼前に広がるダイナミックなパノラマは圧巻のひと言。タイミングが合えば、神戸空港を離発着する飛行機が頭上を通る光景も目にすることができる。「これからの季節は空気がクリアで視界が晴れ、明石海峡大橋のパーツもくっきりと見えるんです。寒さを我慢しても、乗船する価値は十二分にありますよ」と冬のクルーズに太鼓判を押す村岡さん。絶景だけでなく、スタッフの行き届いたおもてなしや温かな笑顔も「boh boh KOBE号」の大きな魅力だ。
海に囲まれる解放感に魅了されて
長崎生まれの村岡さんが船に魅せられたのは、地元の水産高校に通っていた時。「同学年の女子で唯一私だけが興味本位で航海科に進み、3ヵ月のマグロ延縄実習に行きました。体力的にも精神的にもきつい毎日で、男子が次々と音を上げていく中、私は力仕事が苦ではなく、船酔いしたのも一度きり。疲弊するどころか、見渡す限り海に囲まれた生活は、ゴミゴミした街中で暮らすより楽しいと感じました」。この経験から「将来はマグロ漁船で働きたい」と希望したが、女性を受け入れる環境が未整備と知り断念する。それでも船員への夢を諦めきれず、静岡県の国立清水海上技術短期大学校へ進学して船舶免許を取得。卒業後は神戸で就職し、「ファンタジー号」の船長に就いた。
多くの人から愛される船に育てたい
船長の仕事は接客や整備など多岐に渡る。なかでも微細な風の変化を先読みしながら、慎重な舵取りが求められる操船は、毎回緊張感を持って臨むという。「お客様の大事な命を預かる身。小さなミスが大きな事故につながると考えると、一瞬たりとも気は抜けません」。海を見つめるお客さんの笑顔や「ありがとう」の言葉、増えていく常連客との触れ合いが村岡さんの活力。「日本には数多くの観光船がありますが、boh boh KOBE号ほどすばらしい船はないと胸を張れます。その存在をもっと広め、多くの人に乗船していただけるようがんばっていきたいです」と力強く語った。
プロフィール
boh boh KOBE号
船長
村岡 美徳 (むらおか みさと)さん
1991年長崎県生まれ。地元の水産高校を卒業後、国立清水海上技術短期大学校へ進学。20歳の時に、早駒運送株式会社神戸シーバスに就職する。休日の楽しみは、推しのコンテナの写真を撮りに行くこと。「ONEというビビッドなピンクのコンテナがあり、それを運ぶトラックを眺めるためにポートアイランドに通っています」。
インフォメーション
boh boh KOBE
http://www.kobe-seabus.com
神戸市中央区波止場町7番1号 TEL.0120-370-764(9:00~18:30)
乗り場/中突堤中央ターミナル「かもめりあ」前
乗船料/大人1800円~
水曜日運休(天候不良や貸切、イベント等で臨時運休あり)
取材ウラバナシ
マグロ漁船の実習で村岡さんが船酔いしたのは6mの大波に襲われた時。「揺れがひどくて夕食のハヤシライスとパイナップルを嘔吐したのですが、すぐに復活。その後、ハヤシライスを3杯もおかわりしました(笑)」。なんともたくましい!