〝モトロク〟の愛称で親しまれている元町商店街6丁目。シャッター街となりつつあったアーケードの一角で、レザーブランド「Kiichi」が誕生したのは2010年のこと。オープン工房を備えたショップ「STUDIO KIICHI」には、イカリマークを刻印したカラフルな革小物たちが並ぶ。ブランドのオーナー兼デザイナーである片山喜市郎さんは、自身の活動を広げながら、街の活性化にも力を尽くしている。
モトロクに再び活気を起こす
Kiichiのコンセプトは「made in JAPAN」。日本有数の革の産地であるたつの市から上質な原皮を仕入れ、オリジナル加工を施したレザーは、豊かな風合いが持ち味だ。その魅力を職人が引き出し、一点ずつ手仕事で仕立てる財布やキーケースは、機能性とデザイン性を兼ね備え、価格も手頃とあって評判がいい。STUDIO KIICHIと隣り合う創業1917年の「マルヤ靴店」は片山さんの実家。4代目として家業を支える傍ら、モトロクの副理事長も務め街を盛り上げる。「愛着のある元町商店街に活気が戻ればと、空きテナントを借りて始めたのがSTUDIO KIICHI。自分がゼロから商売をやってみて続けば、モトロクは良い場所だよと人にも勧められるかなと思ったんです。」Kiichiに込めたセンスと地元愛は神戸っ子たちに響き、元町商店街に新たな人流を生んでいる。
歴史ある家業を誇りに
一人っ子ゆえに「10代の頃から家業を継ぐ覚悟はできていた」という片山さん。大学卒業後に名古屋の会社で流通を学び、神戸に戻ってからは長田の靴づくり学校や大阪の鞄職人に師事して技術を身に付けた。「歴史は貴重な財産。マルヤ靴店の100年を超える歴史があれば、きっと何かできるだろうと思い、今に至ります。」
STUDIO KIICHIでは、お客さんとの会話から新商品の着想を得る。「オープン工房は職人とお客さんとの距離が近いのが魅力。さまざまな要望に応えるうちにアイデアが広がり、アイテムも増えています。」最近では、撥水加工を施した特殊な革を用い、水洗い可能なレザースニーカーを発売。素材調達から縫製まで県内で一貫して行う独自の製造手法にも注目が集まった。
生まれ育った街に恩返しを
成長を続けるKiichiを見守りながら、片山さんが次に掲げるビジョンは家業の再構築だ。かつては職人を抱え、オーダーメイドの靴づくりを生業としていたマルヤ靴店。そのイズムを呼び起こし、Kiichiで培ったビジネスのノウハウを取り入れながら立て直しを図る。マルヤ靴店のリスタートを街のさらなる活性化につなげたいという思いもあるのだろう。店舗の裏に新設した靴工房には製造機械が所狭しと置かれ、職人が手掛けたこだわりの靴たちが出番を待っていた。「生まれ育った元町商店街の環境と人とのつながりに恵まれ、今の自分がある」と話す片山さん。現在進行しているJR神戸駅前再整備の流れを受け、モトロクも変化の時を迎えている。豊かな発想力と行動力を持つ片山さんが、これから元町にどのようなイノベーションを起こしていくのか。その活躍に視線を向けたい。
プロフィール
喜市 代表取締役
片山 喜市郎(かたやま きいちろう) さん
1982年神戸市生まれ。大学を卒業後、カー用品会社に3年間勤務し、27歳で元町商店街に「STUDIO KIICHI」をオープンする。本業の他にもさまざまな肩書きを持ち、幅広い分野で活躍中。次世代を担う兵庫の職人などをつなぎ、ものづくりのすばらしさを世界に発信するプロジェクト「ひょうご国」の発起人も務める。
インフォメーション
STUDIO KIICHI
国内生産の厳選された素材を使用し、企画から製造、販売までを行う革小物・革製品の専門店。オリジナルの財布やキーケースは飽きのこないデザインで、使うほどに革が育ち長く寄り添ってくれる。
神戸ビーフの革を製品にした「神戸レザー」シリーズにも注目。
078-381-6786
神戸市中央区元町通6-7-3
11:00~19:00
水曜日休み
www.studiokiichi.com
取材ウラバナシ
片山さんのリフレッシュはデイキャンプ。「淡路島や北区のキャンプ場にふらっと行って、ご飯を作ってコーヒーを飲んで、風呂に入って帰るのが楽しみ。携帯電話がつながらない場所で、何にも縛られず過ごす時間は最高です。(笑)」