「ゑみや洋服店」は創業101年を迎えたオーダースーツの専門店。水道筋商店街に店を構え、街の歴史と共に歩んできた。江見真也さんはその3代目を務め、おしゃれに敏感な大人たちを満足させている。
父の言葉に後継者の道を決意
ゑみや洋服店は1922年、江見さんの祖父が春日野道商店街で呉服商を開いたことに始まる。戦後水道筋商店街へと移転し、紳士服商に転業すると注文服専門店の看板を掲げた。やがて既製服販売へと中軸を移し、店は大きく成長する。「長男だった僕は、生まれた時から両親以外の周りの人から『後継ぎや』と言われて育ちました。それにうんざりして、絶対に家業は継がへんと決めていました」。頑な心が解けたのは、就職先が決まり大学卒業を直近に控えた1995年1月だった。「阪神・淡路大震災が起こり、うちの本社ビルも大ダメージを受け、2代目だった父はずいぶんと落ち込んでいました。震災発生4日後、『避難所の人たちに届ける衣類を仕入れにいきたい』と言う父を車に乗せ大阪へと走らせる長い道中で、ひさびさに2人きりで話をしたんです。その時『商売人は商売で人の役に立たなあかん』という父の一言に心を揺さぶられ、『継ぐ気があるなら早く仕事を手伝って覚えるのも手やぞ』との言葉に初めて私への期待がうかがえ、家業に入る決心がつきました。震災がなければ今の自分はいなかった。神様に導かれたのかもしれません」
お客様が褒められる1着を生む
既製品中心からオーダーメイドに軸足を戻したのは2007年のこと。海外で大量生産した紳士服を安く売る量販店が勢いを増す中で存続をかけた一手だった。「小柄な僕は既製品のスーツが合わず、本店の一角にあったオーダーのコーナーで作っていました。そのうちに生地やパーツを組み合わせ試行錯誤するスーツづくりのおもしろさにハマり、これをもっと多くの人に伝えたいと思うようになったんです」。今ではスーツをはじめ、シャツや靴もオーダーに対応。「あなたのモテるをつくる」をキーワードに、顧客の人柄や生活スタイルまで熟知するフィッターと高度な縫製技術を持つ職人が、丁寧な仕事で唯一無二の1着を作り上げる。ゑみや洋服店の逸品は着心地が良いだけでなく、まとう人の個性や魅力まで引き出してくれると長年通い詰めるファンも多い。
スーツをもっと自由に楽しんで
コロナ禍を経てスーツ市場は変革期を迎えている。「日常着から勝負服へと移り変わり、特別な一着を誂えたいという意識が高まっています。また今後は、もっと自由な感性でスーツを楽しむ人が増えるでしょう。我々も新たな挑戦として、スーパーストレッチ素材を用いたカジュアルなオーダースーツの開発を進めています。体に合ったジャケットをビシッと着こなすかっこいいビジネスパーソンが増えれば、日本の景気はより上向くはず。そう信じて努力を続けます」。
プロフィール
ゑみや洋服店 代表取締役
江見 真也(えみ しんや) さん
1972年神戸市生まれ。大阪学院大学卒業後、家業に入る。現在はエルナード水道筋商店街の理事として商店街の活性化にも尽力。また、「NPO法人わくわく西灘」を立ち上げ、神戸市灘区の水道筋界隈で営業する商業者や地域市民と連携しながら、エリアの魅力を発信したり賑わいを呼び込んだりする活動も行っている。
インフォメーション
ゑみや洋服店
江見さんが定期的に配信している動画では、スーツのおしゃれな着こなし方やTPOに応じた着用のポイントなど、大人が知っておきたい情報をコンパクトに紹介。ぜひチェックしてみて。「チャンネル登録もお願いします!」(江見さん)
☎078-861-1147
神戸市灘区水道筋4-1-18
10:00~19:00
水曜休
http://www.emiya.co.jp
https://www.youtube.com/channel/UCeXlD9P32xv0OLUa3IUYGyg
取材ウラバナシ
江見さんの心に残るお客様は、成人式のスーツをオーダーした4人の男子学生。「ビートルズ風のスーツをお揃いで作ってほしい」との声に応え、ライトグレーで上襟が黒の細身スーツを製作。「式典での4人がかっこ良く、いい仕事ができました」。