ある時は、一般社団法人の代表理事、またある時は、株式会社のトップ。さらには、執筆業もこなす大学講師で、元兵庫県広報官でもあり、「Yahoo! JAPAN」を立ち上げた、糸井重里さんを友人に持つシングルマザー…。と聞けば、大抵の人は思うはず。「この人、一体何者なんだ?」と。
先頭で枠をぶっ壊す自由人たれ
「肩書きをあえて1つに絞るなら?」と湯川さんに尋ねると、「自称、革命家」と返ってきた。胸元からは、キューバ革命の指導者 チェ・ゲバラのプリントTシャツがのぞく。ますます謎が深まる人物像を少しずつ紐解いていくと、エネルギッシュでおおらかな人柄が見えてきた。
校則改革に挑んだ小中学生時代から、革命家の片鱗がうかがえた湯川さん。その資質をいち早く見抜き、彼女の感性に多大な影響を与えたのは、孫正義の右腕と言われたヤフー2代目社長の井上雅博さんだった。早稲田大学在学中から「Yahoo! JAPAN」の立ち上げに加わり、ヤフー社員第1号となった湯川さんに、井上さんは「社会からはみ出た人が幸せになってこそ、インターネットという新しい世界の価値が生まれる。ヤフーの真ん中には人間がいることが一番大事なんだ」と説いた。のびのびと仕事をする姿を見て、「カナちゃんはそのまま自由にやっていい」と応援し続けてくれる。そんな人生の大先輩に、社会の懐の深さを教えられた。
激務に耐えかねてヤフーを辞め、結婚を機に移住したスペインでは、「働くために生きるのではなく、生きるためにちょっとだけ働くんだ」と声高に謳うスペイン人から、生き方の本質を学ぶ。そして、憧れだったライターの道を、持ち前の行動力と縁で切り拓いた。「『ほぼ日』が始まったくらいの時に、日本では手に入りにくいスペイン事情を、メールで糸井さんに送っていたら友達になり、ウチで連載してみる?と言われて、ライターとしてデビューしました」。
自分らしく生きる居場所づくり
スペインで10年間、フリーライターとして活動し、虎党だった元夫の「阪神戦が観られるサンテレビの放送圏に行きたい」というひと言で、神戸へ移り住む。突拍子もない元夫の発案を、即決したのには理由があった。大学3年生だった阪神・淡路大震災発生時、試験で忙しいことを言い訳に、何も行動に移さなかった自分を悔やみ、「いつか神戸の役に立ちたい」と思っていたからだ。その一歩として、2013年に「リベルタ学舎」を設立。子育て中のママの社会参画を支援しようと、フリーライターの育成を始めた。徐々に活動の裾野を広げ、現在は、企画の立案・実施などを通して個人の生きる力を高め、協働で自分たちの居場所を作る学び場を、フリーランスを目指す人や不登校の子どもたちなどに提供している。2020年には、リベルタ学舎で得た学びを仕事として実践する復業プラットフォーム「なりわいカンパニー」を創設した。
「どこかで、誰かが、きっとあなたを必要としている。だから常識から心を解放し、自分らしく、自分の力で生きていこう」と呼びかける湯川さん。この言葉が胸に響いたなら、リベルタ学舎の扉を叩いてみてはどうだろう。
プロフィール
一般社団法人リベルタ学舎 代表理事(革命家)
湯川(ゆかわ)カナ さん
1973年長崎県生まれ。早稲田大学在学中に学生起業に参加し、「Yahoo! JAPAN」の創設メンバーとなる。数億円分のストックオプション権を返上し、自由を求めてスペインへ移住。2009年から神戸で暮らし、「一般社団法人リベルタ学舎」や「なりわいカンパニー株式会社」を運営している。その他、グロービス講師や武庫川女子大学講師を務めるなど、多岐にわたり活動中。
インフォメーション
一般社団法人リベルタ学舎
「生きる知恵と力を高める」をテーマに掲げ、主体的・自律的な生き方をしたい人に向けて、「個人の力」と「協働する力」を高める教育プログラムを実施。気軽に参加できるイベントも随時開催している。
☎078-599-9381
http://lgaku.com
神戸市中央区江戸町100番6F コミューン99
取材ウラバナシ
「愉快な仲間と愉快なことをする日々が楽しい」と言う湯川さん。今の関心事はふんどしで、オリジナルを製作し、今年から販売を始めたそう。「下着の締め付けやゴムから解放されて、身も心も自由になれますよ!」