
ファストファッションが世を席巻し、トレンドの服を安価で買えるようになった。でも、もてはやされたデザインはワンシーズンを終えると古さが漂い、着るのをためらってしまう。変化の激しいファッション業界。その波に飲まれることなく独自路線を貫き、長く愛せるジーンズを生み出す女性デザイナーがいる。
スタイルに自信が持てるジーンズ
肌あたりの良い岡山県産のデニム地に、丁寧にほどこされたステッ
チ。手抜きのない職人の技が細部にまで息づくYUNA STYLEのオーダージーンズ。デザイナーの雑賀静さんがプロデュースする1本は、メイド・イン・ジャパンの実力を見せつける。口コミで人気に火がつき、手元に届くまで数カ月待ち。唯一無二の履き心地に魅了され、6割がリピーターだ。雑賀さんが製作の過程で採寸と同じく重要視するのは履く人のライフスタイル。「仕事用かお出かけ用か。シーンに合うデザインやカラーを提案します。好きな洋服のテイストを知ることも、満足していただける品に仕上げるための大事な要素です」。ジーンズは履き手が育てていくもの。きちんと扱えば100年は持つと言う。「当社のジーンズは履き始めは少しぎこちなくても、3年くらい経つと体にフィットし、色落ち具合も絶妙になるんですよ」。経年変化と共に愛着も育つのがオーダーの醍醐味だ。
自分らしい働き方を求めて独立
雑賀さんがアパレル業界に憧れを抱いたのは高校生の頃。当時はDCブランドの全盛期で、華やかな世界にときめいた。美大でファッションを学び、(株)ワールドに入社。夢だったデザイナーとしての一歩を踏み出す。早く一人前になりたいと貪欲に仕事に取り組み、ビッグブランドも経験。順風満帆だったが、転機は35歳の時に訪れた。「私は何でも続いてしまうほうでバイトも辞めたことがありません。だからこそあえて35歳を一区切りにしようと、入社時に決めていました。一度立ち止まって自分を見つめ直し、もし仕事がおもしろくなくなっていたら辞めようと」。周囲にも背中を押されて独立。会社員時代にはできなかった個性派ブランドを担当し、手応えを感じ始めた矢先にリーマンショックが襲う。発注が激減する中、起死回生となったのがジーンズだった。
まっすぐにやりがいを見つめて
「スキニーブームに乗っかって接触冷感など機能性をプラスした商品を作り、ネットで薄利多売を続けました。驚くほど売れたのですが、在庫をさばくことばかりに気持ちが向いて達成感はゼロ。商売はお客様の声が直接聞けないとダメだと実感し、リアル販売に切り替えました。システマチックなことをしていた反動からか、非合理的なことをやりたくなって、オーダージーンズを始めたんです」。今は仕事が楽しくて仕方ない。コロナ禍でも持ち前のバイタリティで斬新なデザインのマスクを発案し、初めて意匠権を取得。大手から許諾依頼も舞い込み勢いに乗る。「アパレル業界では知的財産権がなおざりにされてきました。でもアイデアはただじゃない。業界の未来のためにも、産み出したものを保護することの重要性を伝えていきたいと思います」。力強い言葉に揺るぎない意志がのぞいた。
プロフィール

株式会社 YUNA STYLE 代表取締役
雑賀 静(さいか しずか)さん
1971年大阪府生まれ。ファッション系の美大と専門学校のWスクール後、(株)ワールドにデザイナー入社。基幹卸ブランドから百貨店SPAブランドまで経験し独立。2008年にyuna style designを設立し、大手セレクトショップ等のデザインを手がける。2012年(株)YUNA STYLEを新設し、機能性ジーンズブランド「luccvar」のネット販売をスタート。翌年オーダージーンズブランド「Blufight」を立ち上げる。2019年から国際ファッション専門職大学の実務者講師に就任。
インフォメーション

YUNA STYLE(ユナスタイル)
雑賀さんが手がけるオリジナルジーンズ等の商品や全国百貨店への出展情報はこちらかのサイトでチェック。新作マスクの購入も可能。
URL | http://saikashizuka.com |
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@LINE ID | @qwb8839o |
取材ウラバナシ
ジーンズのお手入れについて雑賀さんに聞いてみました。「1年洗わないという人もいますが不衛生。基本的には2ヵ月に1回程度の洗濯機洗いでOKです」。裏返してネットに入れれば風合いも保たれるそう。長く大事に履きたいものです。