須磨駅からほど近くに立つ小さな一軒家。中をのぞいてみると、個性的な靴がずらりと並んでいる。ここは靴作家 森田圭一さんが営むショップ兼工房「こうべくつ家」。店の奥では森田さんがたくさんの道具を操り、革に命を吹き込んで世界で唯一の一足を育てている。
靴づくりはライフワーク
時を経ても色褪せないデザインと、使い込むほどに味わいを増す革。履けば履くほど吸い付くように足に馴染んでいく森田さんの靴。長田の靴メーカーで働き、西成製靴塾で学んで31歳で独立。無我夢中で駆け抜け、あっという間に13年が過ぎた。工房を須磨に構えたのは「西成製靴塾に通っていた時に、あなたの夢は何ですかって聞かれて。で、ぽろっと出たワードが、海の見える靴屋の店主。それで、今の工房の前に借りていた一軒家を先輩が紹介してくれたんですよ。須磨にぴったりの物件があるぞって。確かに海は見えました。ベランダからほんの数センチ」(笑)。縁あってホームに選んだ須磨は、仕事に没頭できる穏やかな環境。今はすっかり気に入っているという。
ミュージシャンから靴作家へ
紐解くと、意外な経歴の持ち主だ。10代のころに夢中になったのはパンクロック。本気でミュージシャンを目指し、高校卒業後は就職をせずに、音楽活動のかたわら靴のセレクトショップで働いた。理由は「ミュージシャンはおしゃれじゃないといけないと思って」。ところが毎日靴を見ているうちに、かっこいいデザインを自分でも作ってみたいという気持ちが芽生え始める。東急ハンズで揃えた素材を使い、見よう見まねで形にした一足が、ミュージシャンをきっぱり諦め、靴づくりの世界に飛び込むきっかけとなった。「最初のころは平坦な革が自分の手を介して立体になり、人の足を飾るのが素敵だと思っていました。世の中にないものを作って人を驚かせたいとも。今は自分の頭の中の妄想をいかにして履物として形にするかにおもしろさを見出しています。オーダーで靴を作っていると、時には無理難題にも直面しますが、お客さんの理想をきちんと形にして喜んでもらうことが靴作家の醍醐味だと思っています」。
長く寄り添う一足を作りたい
森田さんは、ここ2、3年で靴を作るのがますます楽しくなってきたと目を輝かせる。長くとらわれていた気負いがなくなり、フラットに靴作りと向き合えるようになったと。「出来上がった靴をワクワクしてお客さんに見せると、お客さんもいいね、おもしろいねと共感してくれます。それが何より嬉しくて。靴作家と名乗るようになり10年経ってようやく、もっとうまくなりたいと思えるようになりました」。目指すところは、使い手の日々に寄り添い、共に成長していく靴。「靴は人生を写す鏡のようなもの。アッパーに刻まれた傷がふと記憶を呼び起こし、あの時こうだったなと振り返りながら靴への愛着を一層深めてもらえると、作り手冥利に尽きます。これからも、使い手と1日でも長く一緒に過ごせる靴が作れたら幸せですね」。
プロフィール
靴作家
森田 圭一(もりた けいいち)さん
1975年神戸市生まれ。高校卒業後にセレクトショップで働き、当時出合ったハンドメイドシューズに衝撃を受け、靴製造の仕事に携わる。西成製靴塾を経て2007年に「こうべくつ家」をオープン。ハンドメイドにこだわったブランド「kokochi」を展開する。
インフォメーション
こうべくつ家
ハンドメイドに特化したオーダー受注の靴工房。ユニークなデザイン、履き心地の良さを追求した唯一無二の靴は、老若男女を問わず人気を集めている。直営店の奥には工房を併設。製作風景を垣間見ることもできる。また、靴作りを学べるワークショップも開催。購入後の靴はリペアも受け付けている。
電話番号 | ☎078-732-7740 |
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営業時間 | 11:00〜18:00 不定休 |
所在地 | 神戸市須磨区須磨浦通5-5-24-1F 各線須磨駅徒歩5分 |
URL | http://www.kutsuya-koubou.com |
店舗情報 | 駐車場なし |
取材ウラバナシ
半年に1回は新作を発表している森田さん。ゴールデンウィークにデビューを控えているデザインが写真(3枚目)の一足。取材時はまだ試作中でしたが、軽くて履きやすそうでした。気になる人はぜひショップへ。