北野異人館街の中で最古と言われる旧スタデニック邸。コロニアル様式の建物は143年の時を超えてなお、モダンな佇まいを残す。神戸市の伝統的建造物でもあるこの邸宅が、今年コワーキングカフェ「北野メディウム邸」へと生まれ変わった。仕掛け人は新進気鋭の起業家・山本 宝さん。彼女の自由な発想で開いた空間が話題を呼んでいる。
若手起業家が北野で起こす新風
「神戸で活動するなら、異人館みたいな場所がいい!と物件を探していた時に、運良く出合ったのが旧スタデニック邸でした。神戸に若者が集まる拠点を作りたい。これからは大事なものをシェアして守る時代だから、この歴史的な建物を私たちに引き継がせてほしいとオーナーさんに伝えると、あなたの可能性に期待しようと言っていただき、お借りできることに。まさか本物の異人館で事業ができるなんて奇跡です!」と、山本さんは声を弾ませる。アンティーク家具で彩られたコワーキングスペースには、女性起業家を中心に多彩な才能を持つ人たちが集う。カフェではアフタヌーンティーがヒットし、常に満席。1棟を貸し切ってパーティーが行われることもあり、北野に新たな人の流れを生んでいる。
夢に向かってただ真っ直ぐに
〝宝〟のように大切に育てられ、高校時代は「天然ボケナンバーワン」とクラスメイトに愛された山本さん。大学卒業後は人材紹介会社に就職し、キャリアコンサルタントとして働いた2年間は天職と思えるほど充実していた。けれども、多くの人生をサポートするうちに、自身の将来やキャリアに迷いが生まれる。自分を見つめ直そうと旅したスペインで、生きるために働く人々に触れ、「毎日終電まで働いて、仕事のために生きてる私って何?」と考えさせられた。やりたことを100個書き出し、「挑戦するなら失敗してもやり直しがきく今しかない」と一念発起。仕事終わりに異業種交流会に参加するようになる。「そこで私が惹かれる人は経営者ばかり。自分も独立しようと会社を辞め、夢だったカフェ開業を目指しました」。
場所も幸せもシェアし
笑顔を広げる
寝る間も惜しんでバイトをし、納豆で空腹をしのぎながら3ヵ月で開店資金を準備したが、両親の猛反対にあい、夢を断念する。それでも諦めきれずにいた時、知人から赤字に苦しむコワーキングスペースの再建を任された。クラウドファンディングで改装資金を募り、大阪・扇町にコワーキングカフェ「ROUGH LABO」を開くと、口コミで評判が拡散。若者たちが起業について学び、気軽に相談できる場となった。山本さんは「自由に生き、挑戦する権利は誰にでも平等にある。かつての私と同じく人生やキャリアで悩む女性に、一歩を踏み出す勇気を届けたい」と意気込む。利益優先の経営に興味はない。「私が起業したのは人生を楽しむため。仲間とチャレンジできる今に感謝し、周りの人を笑顔にしたいです」。次の夢は大好きな豪州メルボルンに拠点を作ること。神戸の魅力を世界へ発信したいと瞳を輝かせた。
プロフィール
株式会社 ROUGH LABO
代表取締役社長
山本 宝(やまもと たから) さん
1990年神戸市生まれ。関西学院大学を卒業後、会社員を経て、26歳の時に株式会社ROUGH LABOを創業(https://roughlabo.com)。「ダイヤの原石にように自分を磨き上げる環境づくり」に注力し、起業を目指す若者などにコワーキングスペースを提供している。SDGs(持続可能な開発目標)にも関心が高く、ミスSDGsとしても活動中。趣味は海外旅行。
インフォメーション
北野メディウム邸
コワーキングスペース、カフェ、撮影スタジオなど、さまざまな顔を持つ神戸の新スペース。交流会に参加でき、住所登記も可能な「アトリエ会員」(女性)の募集も行っている。
078-855-3900
神戸市中央区山本通2-9-19
https://mediumtei.com
取材ウラバナシ
山本さんに神戸の魅力を尋ねると、「異国情緒があり、山も海も近くて自然環境が豊か。美意識の高い人が多く、街並みもおしゃれでかわいい!」と即答。あふれる地元愛で、神戸をさらに盛り上げてくれるはず。応援しています!