御食国(みけつくに)と呼ばれ、古来より食材の宝庫である淡路島。豊かな自然が育む四季折々の野菜は、ブランド食材として名を馳せている。澄み渡る青空のもと、野菜づくりに励む一人の女性農業者を訪ねた。
誰にも何にも縛られず マイペースに野菜づくり
島の最南端に位置する南あわじ市。穏やかな気候と肥沃な大地に恵まれ、深い味わいを持つ『淡路島たまねぎ』の一大産地としても知られる。この地で2014年に就農し、「Farm House ちしゃ」を営んでいる正木 光さん。ちしゃとはレタスの和名で、実家がレタスを栽培する農家であることに由来し名付けたそうだ。広い農地を一人で耕し、環境と人に優しい農薬節約栽培を実践。レタスとタマネギを中心に、年間40~50種類に及ぶ少量多品目の野菜を育てている。とりわけ自信のある野菜はレタス。「季節に応じた品種を植え、それぞれに食感が異なります。春と秋はフワフワシャキシャキでサラダ向き。冬はギュッと締まり、しゃぶしゃぶにするとおいしいですよ」と言いながら、実は料理が苦手。複雑なレシピの味より素のままが一番と笑う。間引いたニンジンをさっと洗って畑でかじる。広がる甘さとみずみずしさ。滋味深い味が農作業の疲れを癒やしてくれる。
家族や仲間に支えられ知った農業の楽しさ
野菜と向き合う毎日が心底楽しいと胸を張る正木さん。子どものころから跡継ぎであることを意識しながらも、昔は「汚くて、暑くて、しんどいのが農業」とあまり良いイメージを持っていなかった。心境に変化が生まれたのは、病気がきっかけだったという。「体調を崩して勤めていた会社を退職。入院や手術を控えていたので再就職先を探せず、実家を手伝うようになりました」。農業の手間や大変さを実感する一方で、野菜を栽培することにおもしろさや喜びを覚え、農家になることを決意。父と叔父のもとで学び、独立した。地元の女性農業者グループ「Awajiプラチナ農業女子」にも所属し、活動する中で励まし合える仲間もできた。最近は販路も広がり、少しずつ手応えを感じられるようになったという。
安心・安全、新鮮な味を食卓へ直送
丹精込めて育てた味を直接お客さんに届けたいと、昨年からはネット販売も始めた。届いた先の笑顔を思い浮かべ、バランスの良い食卓を意識しながら、箱いっぱいに旬を詰め込む。収穫した日に発送する野菜は「鮮度が別格」「農薬に頼らないのに形が美しい」と好評だ。その声を励みに新作野菜の栽培にも意欲的に取り組む。「最近は、生で食べるカーリーケールと、西洋の黒キャベツとも言われるカーボロネロ、アスパラ菜がヒットでした。おもしろそうな野菜を見つけてはトライしています。育てるうちに愛着が湧き、収穫できたときの喜びはひとしおです」と声を弾ませる。今年は、成長すると数百キロにもなる巨大カボチャにもチャレンジするそう。抱え切れないくらい大きくなる姿に思いを馳せ、今日も畑で汗を流す。
プロフィール
Farm House ちしゃ 園長
正木 光(まさき ひかる)さん
1983年南あわじ市生まれ。高校を卒業後、結婚し、21歳でシングルマザーに。2007年に一般企業に就職。その後退職を経て2014年に就農。2017年より「Farm House ちしゃ」を立ち上げ、現在に至る。
インフォメーション
Farm House ちしゃ
正木さんの育てた野菜は「産直アウル」から購入できるほか、産直市場「ナナ・ファーム須磨」、阪急オアシスやダイエーなどのスーパーでも販売中。バーコードシールに書かれた「Farm House ちしゃ」を目印に。
産直アウル
https://owl-food.com/sellers/348
取材ウラバナシ
野菜を育てながら、シングルマザーとして子育てにも奮闘してきた正木さん。子どもたちが手を離れたら、免許を取得したジェットスキーを思う存分楽しみたいとか。その時まであと2、3年。がんばって!