
年々増加している滞日外国人の女性たち。実は、慣れない異国の地での暮らしに悩みを抱えている人も多い。日本の社会に埋もれてなかなか目を向けられないこの問題と向き合う、若き女性に注目した。
アジア人お母さんが本場の味を提供



南京町へとつながる細い路地に、カラフルなランタンが灯る店がある。「神戸アジアン食堂バル SALA」は、女性店長の黒田尚子さんが3年前にスタートさせた一軒。アジア人の女性が日替わりでシェフとなり、母国の味を提供する。タイ、フィリピン、ネパール、台湾、モルドバ…。旅に出ずとも本場の料理が楽しめるとあって、ランチやディナーのピークタイムには満席になることも少なくない。日本人の舌に媚びず、スパイスや食材にこだわった一皿は、新鮮みがありながらもどこか懐かしさを感じさせ、口に運ぶとやさしさに包まれる。〝おふくろの味〟が持つ、万国共通のパワーなのかもしれない。
孤立する在日アジア人女性に光を
黒田さんがSALAを始めたのには訳がある。関西学院大学人間福祉学部で日本が抱えている社会問題について学んでいたときのこと。言葉の壁や文化の違いなどで、滞日外国人の女性たちが社会とうまく関わりを持てず、引きこもっていることを知る。ところが、黒田さんに食べさせたいと持ってきてくれた手作りの母国料理を囲んだ時だけは一変。日頃は無口な彼女たちも目を輝かせておしゃべりになり、笑顔の花が咲いた。「母国料理を強みにできる場があれば、彼女たちももっと自信を持って日本で暮らせるようになるのではないだろうか」。そう考えた黒田さんは、学内で滞日外国人女性たちと一緒に屋台を開き、ケータリングやカフェも始めた。卒業後も活動を継続したいという思いが強まり、そのために必要なノウハウを身に付けるため、リクルートに就職。飲食店への営業を通して料理の見せ方や効果的な宣伝方法を学び、2016年、念願だったSALAのオープンにこぎつけた。
自立支援の場を広げていきたい
SALAではホールスタッフも多国籍。一緒に仕事をする上では意見がぶつかることもあるが、黒田さんは遠慮をしない。「互いの文化を理解する努力をし、尊重すれば分かりあえます」。長年働いているスタッフとは「家族のような関係」とほほえむ。黒田さんの願いは、SALAが滞日外国人女性たちの自立へのステップとなること。SALAでの働きが自信につながり、店を持ちたいと夢を語る人も出てくるなど、思いは実を結びつつある。SALAの経営はようやく軌道に乗り始めたばかりだが、活動を続けるために新事業の創出も不可欠。今年はSALAの人気メニューであるタイの麺料理「カオソーイ」専門店のオープンを予定し、通販事業の拡大やケータリングの運営などにも取り組みたいと意欲的だ。国籍や性別に関係なく、互いの価値や個性を認め合える社会を目指し、黒田さんはこれからも前に進んでいく。
プロフィール

神戸アジアン食堂バル SALA 店主
黒田 尚子(くろだ なおこ)さん
1989年神戸市生まれ。関西学院大学在学中から、滞日外国人女性たちの悩みに寄り添い、支援活動を開始。卒業後はリクルートに就職し、情報誌の営業・編集に携わりながら飲食業界について学ぶ。2016年に「神戸アジアン食堂バル SALA」をオープン。ユニークな取り組みが注目を集めている。
インフォメーション
神戸アジアン食堂バル SALA

アジア出身の女性たちが日替わりでシェフとなり、多国籍家庭料理を提供する。昼と夜、日によってメニューが変わり、さまざまな味が楽しめるとあって人気。台湾の「魯肉飯(ルーローファン)」やタイの「カオマンガイ」はオリジナルの特製だれが自慢の一品。シェフのスケジュールはHPでチェックを。
電話番号 | ☎078-599-9624 |
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営業時間 | 11:30〜15:00(L.O14:30)※日曜はランチのみ/火曜休 |
所在地 | 神戸市中央区元町通2-3-16 食味館1F 各線元町駅徒歩5分 |
URL | http://kobe-sala.asia/ |
店舗情報 | 駐車場なし・禁煙 |
取材ウラバナシ
昔は料理にまったく興味がなかったという黒田さん。SALAを営む中で厨房に立つ機会が増え、今ではさまざまなアジア料理が作れるようになったそう。話の中で出てきた看板料理の一つ「カオマンガイ」を食べに、次はぜひプライベートで訪れます!