明石公園内にある人気のカフェ「TTT」。テイクアウトフードやバーベキュー料理を提供するオープンエアな空間は、迫力のある石垣と植栽を味方につけ、訪れる人の心を奪う。今回はその仕掛け人成田收彌さんにスポットを当てた。
人が集まりたくなる 空気感をつくる
成田さんにとって明石公園は幼い頃の遊び場。魅力を熟知していた。「僕が空間づくりで一番大事にしているのは、自分なりの視点を探すこと。何を、どの角度から、どの高さで見せると一番美しいかを探ります。明石公園で見せるべきは長く続く石垣。建物のひさしと石垣のラインを平行にすることで、横長の景観美を生み出しました」。人々が積み上げてきた歴史を尊重しながら新しい価値を加え、場に一層磨きをかける。成田さんが挑む「人が集いたくなる空気づくり」に今、熱い視線が注がれている。
欠点は利点に変えて 再び活気を
活動の原点は家業にある。明石を中心に事業を展開する1984年創業のキャッスルホテル。後継者として手腕を振るう中で、街を見る目に変化が生まれた。「明石は観光目的の宿泊が少なく、ホテルの利用者はビジネス客が大半。ホテルは街のインフラであり、市町村と連携して地域の魅力を高めることが集客にもつながると、エリアマネジメントに意識を向けるようになりました」。にぎわいを呼び込むには、カギとなるコミュニケーションツールが必要になる。そこで着目したのがバーベキューだった。大蔵海岸の「ZAZAZA」、大阪舞洲の「森とリルのBBQフィールド」、神戸ワイン城(農業公園)の「KOBE WEST」とバーベキュー施設を手がけ、話題をさらう。概念やルールにとらわれず、場の欠点を利点に変えて誕生した空間は、光を失ったエリアが再び注目を浴びる契機となった。
辛い経験を力に変えて 前へ進む
「どうしようもないと言われる場所ほど、自分たちならなんとかできると思ってしまうんです」。この言葉の裏には過去のいびつな経験があるという。関学大卒業後に東京へ移り、勉強のため大手外食チェーンへ就職。やる気と勘のよさを買われ、新卒で売り上げ1位の店舗を任された。意気込んだのも束の間。厳しい現実に直面する。「1日の勤務時間は16時間、休みは2ヵ月に1回。自分以外の働き手は外国人で、想像を絶するトラブルの連続でした。働いた1年間は世間の記憶がありません」。その後の転職先でも混沌とした人間関係に揉まれ、26歳で地元に戻った。「でも当時は苦境を跳ね返す力があり、やさぐれてはいませんでした。すべて自分にとっては学び。心が鍛えられ、何事にも動じなくなったのは、あの頃があったからです」。辛い時期を踏ん張れたのは、大学時代アメフト部で共に過ごした亡き友の存在も大きい。「練習中に命を落とした彼は、リーダーシップがあり、努力家でストイック。そんな姿に刺激を受けました。彼のおかげで今の僕がある。仕事での成功をいつか報告するため、毎日自分を奮い立たせています」。夢は日本のパブリック空間に日本的なにぎわいがあふれる景色をつくりだすこと。次の世代のためにも力を尽くしたいと力強く語った。
プロフィール
バーベキューアンドコー 代表取締役
ホテルキャッスルプラザ 専務取締役
成田 收彌(なりた あつや)さん
1982年明石市生まれ。
関西学院大学を卒業後、大手外食チェーンへ就職。その後大手ホテル勤務を経て地元に戻り、ホテルキャッスルプラザ専務取締役に就任。2017年にバーベキューアンドコーを設立し、関西を中心にバーベキュー関連のビジネスを展開している。
インフォメーション
DR.BBQ
バーベキューアンドコーでは、バーベキューをより楽しむためのオリジナルプロダクトを開発中。その一つがスパイス。数種類のハーブや岩塩などをブレンドし、肉の下味としてだけでなく、他の料理へのアレンジも自在。スパイスで家族や仲間をもてなし、思い出に残る時を過ごしてみては。購入はHPオンラインショップへ。
取材ウラバナシ
2022年の春には大阪府堺市にまた新しいバーベキュースペースがオープンする予定だそう。その頃にはコロナも終息し、心置きなく楽しい時間が過ごせるようになっていてほしいものです。