平清盛の御所跡地といわれる雪御所町に建つ湊山小学校が、141年の歴史に幕を閉じたのは2015年のこと。そして今春、自然との暮らしを楽しむコミュニティ型複合施設「NATURE STUDIO」へと生まれ変わった。その立役者となったのが村上豪英さん。工務店の社長を務める傍ら、神戸の活性化に取り組んでいる。
地域の魅力を再認識する新スポット
「実は僕も湊山小学校の卒業生。近くの平野商店街へは、幼少期に母とよく買い物に出かけました。今では地域の高齢化が進み、空き家も増えましたが、下町らしい情緒や人々の営みは変わらずあります。今後もまちが続いていくために、閉校後の母校を地域に賑わいを生むスポットとして再生できないかと考えました」。場所が持つ歴史的な背景や思い出が詰まった校舎を大事にしながら、人と自然がつながる場にしたい。そんな村上さんの思いを形にしたのがNATURE STUDIOだ。外装は学び舎の面影を残し、内装をダイナミックにリノベーション。給食室がクラフトビールの醸造所になり、体育館や特別教室は水族館やフードホールへと様変わり。元校庭にはハーブがそよぎ、ニジマス釣りを楽しめる小さな池もある。吹き抜ける風がなんとも清々しく、心を軽くしてくれるスポットだ。7月のグランドオープンに先駆け、醸造所とハーブショップは4月から営業をスタートし、人々の新たな交流とまちの活気を創出している。
人の心を豊かにするまちづくりを
東遊園地の社会実験「アーバンピクニック」や、三宮ターミナルビル跡地を活用したアウトドアホール「Street Table三ノ宮」など、地域力を高める取り組みに勤しむ村上さん。活動の原点はソーシャル系大学「神戸モトマチ大学」にある。阪神・淡路大震災と東日本大震災を経験し、神戸のまちのためにできることをしたいと2011年に設立した。「学生時代を過ごした京都では、飲み屋で偶然隣り合った人と、地域文化や社会について気軽に意見を交わせる雰囲気がありました。神戸モトマチ大学はそこから着想を得たもの。多様なジャンルの講師を招き、神戸の文化やまちについて積極的に学びたい人たちに場を開いています」。現在、急速に進んでいる三ノ宮周辺の都市開発。この動きを村上さんはどのように見ているのだろうか。「行政と企業が進めている事業という印象が強いですが、その輪に市民も参加でき、まちの変化を〝自分ごと〟として捉えられる仕組みがあってもいいのかなと。市民の力でまちをつくっていこうという機運が高まれば、神戸が発展する可能性はより広がるかもしれませんね」。地域に根差し、手間をかけ、愛情が伝播する活動を目指したいと、柔らかな表情で語る村上さん。「性別、国籍、世代を超えて人々が自然と混ざり合い、同じ空間を心地良く共有できるのって幸せだと思うんです。そうした場づくりを今後も追求していきたいですね」。
プロフィール
株式会社村上工務店
代表取締役社長
村上 豪英(むらかみ たけひで) さん
1972年神戸市生まれ。幼少期から身近な自然に親しむ中で自然保護への関心が芽生え、京都大学大学院理学研究科生態学研究センターで生態学を学ぶ。修了後は仕事を通してまちと自然の両面に貢献することを目指し、シンクタンクへ入社。その後、村上工務店に転職し、東日本大震災を契機に地域活性化の諸活動を始めた。2022年秋には東遊園地内に「アーバンピクニック」拠点施設のオープンを予定しており、現在準備中。
インフォメーション
NATURE STUDIO (7月グランドオープン)
「自然と暮らす地域をつくる」をコンセプトに企画・設計。北館、東館、PICNIC GARDEN、FISH PONDで構成された敷地内には、ハーブや野菜苗、園芸グッズなどを扱う「HERB SHOP」や「マンドリル」、りんごスイーツ専門店「あら、りんご。」、ビアカウンター、水族館(要入館料)、釣り堀などがある。また、保育園や就労支援施設も入り、2年後に新設される西館には医療機関等の入居も予定されている。
神戸市兵庫区雪御所町2-18
8:00~19:00(施設によって営業時間は異なる) 不定休
取材ウラバナシ
NATURE STUDIOで作られたクラフトビールは、三宮神社近くの「open air 神戸元町店」でも楽しめます。地元の地下水とハーブを使い、ポーランド出身のブルワーが丁寧に仕込んだ自慢の味。風味豊かな一杯をぜひ!